人類は如何に神々として滅びるか

『自己が無視されることを無視するという彼等の英雄主義』

Kindle(KDP)小説『河童之国探偵物語』第一作を無料試し読み

  『河童之国探偵物語』シリーズは、芥川龍之介の『河童』と、コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズ』シリーズをネタ元にしたパロディ小説です。

 人間の「僕」(G君)が河童の国へ落ち、河童の探偵ブケットと知り合いになり、友情をえることによって、さまざまな事件に遭遇するという話です。

 けれどもブケット氏は河童の国での探偵ですから、普通の探偵とはちがっています。

なぜならブケットは、まず何よりも金を得るために仕事を受けるのであり、そうでない場合には、名誉欲か美しい雌が必ず絡(から)んでいました。事件自体の面白さ、特殊性に興味を抱くということは、まったく無いと言ってよかったのです。こういう彼の探偵哲学は非常に強固なものだったので、せいぜい二月(ふたつき)程度の付き合いしかなかった当時の僕にも、すでに分かりすぎるほど分かっていたのでした。【シリーズ第二作『黄皿連盟』より

河童之国探偵物語--クヮヌノットの醜聞--

河童之国探偵物語--クヮヌノットの醜聞--

 

  第一作の『クヮヌノットの醜聞』では、シリーズの語り手である「僕」と探偵ブケットの出会いがまず語られます。

 

 目次
最初の事件
・第一話「探偵登場」
・第二話「ブケットの推理」
・第三話「探偵の菓子折り」
クヮヌノットの醜聞
・第四話「クヮワヌノット」
・第五話「大臣の依頼」
・第六話「超河童倶楽部」
・第七話「宿酔」
・第八話「カパブランカ」

 

 Kindleでは冒頭いくらかのページを無料でDLして試し読みすることができるようになっていますから、その部分をここに書き出してみます。よければ、ご一読ください。

 

最初の事件

 第一話「探偵登場」

 玄関の扉をぶち破りかねないノックの音に驚きあわててノブを回すと、鹿打帽(しかうちぼう)を被りインパネス・ケープを羽織(はお)った河童(かっぱ)が土足(どそく)でずかずかと押し入り、二、三歩後ずさった僕は、彼のぬめぬめした手の平に腕を掴(つか)まれ、声をあげる間もなく宙を舞うと、背中をしたたか床に打ちつけました。

 ――その夜僕は、学生のポップ君にピアノを弾いてもらい、河童語の練習を兼(か)ねてポップ君の故郷に伝わる比較的平易(へいい)な歌を教わっているところでした。僕が「特別保護住民」として現在の住居をあてがわれてから、もう二十日は経(た)っていましたから、その夜で僕が河童の国へ落ちてから丁度(ちょうど)二ヶ月ほどになるはずで、その頃には、日本から落下した際にこしらえた腕の怪我(けが)もほぼ完治(かんち)していましたし、僕の拙(つたな)い河童語も身振り手振りを添(そ)えれば日常会話にさして不便を感じさせないほどには上達していました。(ポップ君の話に従えば、通常人間が河童の国で捕獲(ほかく)された後、一週間ほどすれば法律の定めるところに従い、国会の過半数の承認をもって「特別保護住民」と指定されるはずなのですが、あいにく僕が河童の国へ落ちた当時、国会は外務大臣の罷免(ひめん)問題――発端(ほったん)は外務大臣が獺(かわうそ)国の胡瓜(きゅうり)を国産(つまり河童国産)胡瓜よりも「美味(びみ)である」と発言したための――で混乱していたたため、僕は四十日間にわたって動物病院のベッド――院長の好意によって宿直医用の部屋をあてがわれましたが――で過ごさなければならなかったのです)
 僕の家に前述の珍妙(ちんみょう)な河童――のちに僕と最も親交を深めることになる 探偵の河童――が押しこんできたのは、丁度僕がポップ君のピアノに合わせ、「Qua-qua- qua-qua」(日本語に直せば「ラララ…」といった程度です)と歌っていた最中でした――

 ――「やいっ! このおっ! 人間めっ! 思い知ったか!」
 僕を投げ飛ばした河童は、それだけでは飽(あ)き足らず、床に仰向(あおむ)けになってのびた僕の喉元(のどもと)へグイグイとステッキの先を押しこんできます。痛みに喘(あえ)ぎつつ仰ぎ見れば、彼の顔は興奮で赤緑に紅潮し、(河童の興奮した場合、その皮膚の色は著(いちじる)しく悪くなると言わざるをえません)ケープは乱れ、既(すで)に鹿打帽は頭から落ちています。
「何をするんですかっ!? やめてください、この人間はまだ怪我が治ってないんですよ!」ポップ君がいちはやく駆(か)けつけて――いえ、ポップ君が僕の側(そば)に駆けつけ抗議の言葉を口にしたときには、僕をステッキで痛めつける河童の後ろから数匹の河童が家の中に押しかけていました。
 そのうちの一匹がケープの河童をなだめると、ようやく僕は苦痛から解放され、ポップ君の力をかりて半身を起こすことが出来ました。なだめに入った河童が僕に会釈(えしゃく)して話し始めます。
「どうもGさん。(Gというのは僕の名前です)私は警視庁のクエストレイド警部です。後のはみんな部下でしてですね。そしてこの河童こそが、(クエストレイドはステッキを持って、そして鹿打帽を被り直した河童に僕の注意をむけさせました)かの有名な名探偵ブケットさんです」
「クエストレイド君、僕はそういう大げさな紹介は好まんよ」
 けれども、探偵はクエストレイドがそれ以上彼をたたえることをせずに、用件を伝え始めたことに対して明らかに不満げな顔をしていました。
「今晩ブゲットさんとこちらへお伺(うかが)いしたのはですね、新聞は読まれましたかな? ふむ、読んでおられる。しかしまだあなたはこの国の言葉が……あぁ、あぁ、ふぅむ、なるほど、あなたが読んで聞かせた。(とポップ君を見て)なんですかな、Gさん、彼にわざわざ読んで聞かせてもらうほど関心があることでも? いやあ新聞を読んでいれば知っておられると思いますがね、昨晩この近くで殺しがありましてなあ」
「僕と何か関係でも?」
「ええ、なんとぉいいますか、特別保護住民のあなたに聞くのは失礼ですが、一応参考までにですなあ、昨晩のあなたの行動と、それから殺された船員を知っていらしたか……」
「ええい、まどろっこしい! こいつが犯河童、いいや犯人に決まっている。こいつは単に珍獣であるというだけで、我々の血税(けつぜい)でもってただ飯をくらっている、この悪党が犯人に違いないっ!!」
 探偵の断定に対してポップ君も興奮して僕の弁護に立ちます。
「例え有名な探偵さんだとしても、その言いぐさは無いんじゃないですか、だいたいなんの根拠(こんきょ)があってそんなこと言ってるんですか!」
 そのとき、探偵の頬(ほお)がぐにゃりと歪んでおおきな嘴(くちばし)が冷笑(れいしょう)を浮かべ、クエストレイドが遠慮勝(えんりょが)ちに、しかし、自信ありげな顔で口を開きました。
「それがぁ、ですなあ。こちらには証人がおりまして……まあお入りなさい」
 警部にうながされてはいってきたのは小柄な一匹の河童です。(そのときの僕にはまだその河童が雌(めす)である事すら判断がつきませんでした)彼女(雌)はポップ君に支えられて床に座りこんでいる僕の顔をじっと覗(のぞ)き込み、僕にむけてその水搔(みずか)きのついた長い人差し指を向けると、きっぱりとこう言い放ちました。
「そうです。間違いありません。私の夫を殺したのは、この人間です!」


 第二話「ブケットの推理」

  試し読み部分はここまでです。

 つづきの部分では、ユーモアとアイロニーとパロディに満ちた世界で、河童の国へ落っこちた人間の「僕」と、性格破綻した河童の探偵ブケットが、引き起こし、巻き込まれる事件の数々を読んでいただけるようになっております。