人類は如何に神々として滅びるか

『自己が無視されることを無視するという彼等の英雄主義』

最近読んだギリシア本いろいろ(2冊目)『古代ギリシア人の生活文化』J.P.マハフィー

 前回脱線してしまって一冊だけになったので、気を取りなおして、最近読んだ古代ギリシア関連本の感想をメモっていく。

古代ギリシア人の生活文化

古代ギリシア人の生活文化

 

  J.P.マハフィー( Sir John Pentland Mahaffy  1839 – 1919)さんは、今から100年前に死んでる昔の人で、だからこの本が1991年の発行だと書いてあっても、古代ギリシアについての最新の研究(知見)とは隔たりがあるだろうということは、あらかじめ頭に入れておかなくてはならない。

 にしても、だ。

南ヨーロッパの他の民族と比べると、生粋のギリシア人の多くは、色白で、よく体の均整が取れていて、美しい容貌をしていたからである。 

  というような文章を「序」でいきなりもってこられると、普段「政治的正しさ」という単語を鼻でわらっているような私でさえ、身構えてしまうのも仕方ないと同情頂けるだろう。この本は、偏見にまみれた情報ばかりが載っているのでは、という疑いがむくむくとわき起こって、眉の間あたりにとどこおる。

 例えば、こういう記述がある。

すべての市民とその妻たちが、国家から支給されたニオボルの料金で、劇場に行って席を取り、ソポークレスの四つの劇や、エウリーピデースの四つの劇に対抗する、アイスキュロスの四つの劇に聞き入ることができた。 

  ん、ん、ん? アテーナイで行われた劇の観客に、女性がいたかどうかについては、議論の分かれるところではなかったか? 

 『アテナイの劇場でこの時代に観劇した市民の数がどのくらいであったか、ことに婦女子が喜劇を見物したかどうかについては、確実な記録はないが、(ギリシア喜劇全集Ⅰ 人文書院)』

 女性が観劇していたと思わせるような記述がある資料はあり、マハフィーの意見が女性も観劇していたはずという意見だったとしても、確たる証拠があるのでなければ、ここまで言いきってしまうのはどうかという感じがする。

 そもそもよく巻末にある参考資料一覧とか出典一覧とかいうものがついてない。

 

 訳者あとがきによればマハフィーという人物は

「大公」「アイルランドの偉人」「真の学者」「魅力的で暖かい心の持ち主」と呼ばれるかと思うと、「俗物そのもの」「ひねくれ者」「快楽者」とか「にせ学者」などと酷評され

 とあるように、そもそも人物自体がくせ者すぎる人だったらしい。

 だからどうも、この本にあることを丸々信じてしまうのは古いからというだけでなく、危険な感じがする。「~~とも言われる」とか「~~という説もあった」くらいの取り方が無難だ。

 

 という前提でならば(ずいぶんマイナスなことばかり最初に書いてしまった)本書は、他の古代ギリシア関連本ではあまり紹介されない、庶民を含んだ古代ギリシア人の風俗を多分に伝えてくれて、読み物としてなかなかに楽しい。

 古代ギリシアの結婚について、家屋敷について、家具について、宴会について、遊びについて、召使いについて、旅行について、などなど。

 訳者あとがきで『今日でさえ古代ギリシア学の様々な分野の種本の一つであると言ってよい』ということだから、日本で刊行されているイラスト入りの古代ギリシア入門みたいな本の参考資料を覗くと、この本とマハフィーの名前が出てくるかもしれない。

 

 

ドロテア

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