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人類は如何に神々として滅びるか

『自己が無視されることを無視するという彼等の英雄主義』

火野葦平『河童曼荼羅』を手に入れる──実は文人曼荼羅だった?──

  河童が出てくる小説を書いていて、それは芥川龍之介の『河童』のパロディでもあるわけだけど、知識が「芥川の河童」ばかりというのも、あまりに怠けているようだから、他の『河童』も読んでみようという我ながら殊勝な心がけである。いや事実は「芥川の河童」だけではネタ切れだから、他にパクれるものを探そうという卑しい魂胆かもしれぬ。どうもそのようだ。はじめからパロディをうたっているから「パクリ」への「心的障壁」は低いのである。ネタ元をひた隠しにして後でバレたら盗作と言われかねないが、最初からパロディをうたっていればオマージュだと言い張れる。罪と尊敬の違いはこれほどに紙一重なのだ。

河童曼陀羅

河童曼陀羅

 

 復刻新装版。中身はそのままらしい。

 古本屋にネットで注文したから気づかなかったが、かなりでかい。

 サイズは 25.8 x 19 x 5.4 cm だそうだが、ぱっと数字を並べられてもピンとこないかもしれない。しかし、厚さが5.5cmあると思って指で「このくらい?」とやってみてもらえば少し大きさが分かるだろう。タテはその5倍弱、ヨコは4倍弱ある。

 大判の国語辞書と並べてみてもひけをとらない。

 カッパマンダラといっても、河童の曼荼羅図が何ページも描かれているのではなくて、火野葦平という小説家が生涯かかって書いた河童に関する短編小説が四十三編と、「河童音頭」というタイトルのもとに、一行が七・五の音で十二文字の四行詩が十二編収められている。火野葦平が描いた河童の絵も厚紙のページで五枚ある。

 ただでかいというだけでなく、なかなか豪華な本だ。なにがどう豪華かというと、著名人がたくさん参加しているのである。

 まず題字を武者小路實篤が書いている。序文は佐藤春夫で、イラストカットは折口信夫が担当している。目録(目次)のイラストカットは宇野浩二だ。本文中の作品一編一編にも、イラストカットが添えられていて、どれもこれも著名人のものらしい。昔の本なので、だいたい鬼籍に入っている人達ばかりだろうが、それでも聞き知った名前がたくさん出てくる。伊藤整、平林たい子、尾崎士郎、河盛好蔵、青野季吉、石川達三、徳川夢聲、高峯秀子、井伏鱒二、草野心平、亀井勝一郎、尾崎一雄、横山隆一、小林秀雄、花柳章太郎、棟方志功……。これで全てでなくて、僕なんかが聞いたこともない人の名前もまだずいぶんある。文人が多いがそればかりというのでもない。小説四十三編、プラス、四行詩十二編、プラスα分のイラストカットがある。どうして、こんなことになっているのかと、あとがきを読めば、火野葦平自身がこう書いている。

この本のために、私は諸先輩に奇妙奇天烈なお願ひをした。四十三篇をそれぞれ異なつた人たちのカツパ・カツトで飾りたかつたからである。これまで一度もカツパをかいたことのない人たちが多かつたにちがひないし、多分、私の依頼は突飛で變てこな無理難題であつたであろう。それにもかかはらず、承諾して下さつた方々が次々にカツパのカツトを寄せられ、私を狂喜させた。

  いくらなんでも全然面識のない人にこんな依頼をしても、断られるほうが多いように思うから、火野葦平は社交の広い人だったんだろう、多分。

 とにかくたくさん著名人のイラスト(カツパ・カツト)が入っているのは楽しい。

 文人というと、絵心もあって、色紙にサインをねだられると、ささっと気の利いたイラストを添えたりするものだという偏見が根強くあって、絵が大変下手くそな僕はコンプレックスのようなものがあったのだが、パラパラ見ていくと、これはちょっとと思うものも少なくない。絵心がない人間が言うのもなんだし、その点誤解があるかもしれないが……。そもそも火野葦平だって絵が上手いかっていうと、これは上手いんだろうか? あんまり拍手喝采するほどの出来でもないような気がする。

 中には、ずいぶん気軽に、雑に描いてるように見えるものもある。まあ頼まれたから仕方ないと数分でやっつけた、みたいな。丸を描いてまわりにシャシャシャと線を十本ばかり引いて、河童の皿を表現したものとか、河童が池にとびこんだ波紋だけ書いてるのとか。

 しかし待てよ、と今思うのである。絵が下手な自分がもしこういう依頼をされたらどうするか。弱ったぞと思う。皿だけ描いた人も、波紋だけ書いた人も、同じように絵が苦手だったんではないか。絵が得意なら「ちゃんとした河童」を描いてやるだろう。火野君からの依頼は受けたいが、自分は絵が下手くそだ。聞けばたくさんの人に頼んでいるらしい。であるならば、多少違ってはいても、同じような河童の絵が集まるに違いない。自分一人に、というのならともかく、大勢の河童の中になら……そうだ、大勢の河童の中になら、少しぐらい奇をてらった、そう例えば、河童の皿だけの絵や、河童が飛び込んだあとの池の面を描いた絵があっても構わないだろう。と思いついて、皿の絵だけのために、二枚、三枚……十枚、二十枚と試行錯誤し、やっと満足のいくものができてからも、待て待て、皿の絵にこれだけ力を入れました、というようなものを載せるのも気恥ずかしいと、今度はなるだけさらっと描きました、と見えるように苦心して苦心して、ようやく描き上げたものかもしれないのだ。絵が下手ってのは大変なんだ。

 サンプル数が少なめだが、女性のイラストもポツポツとあって、これらはどちらかというと丁寧に描かれている傾向があるようだ。「画伯」なんて楽しんで(馬鹿にして)くれる「文化?」などなかった当時だから、才女にとっては、イラストカット一枚仕上げるのも、今などよりずいぶん気をつかう仕事だったかもしれない。

 

 これだけカッパの著名人作イラストの話ばかりして、実物を一枚も貼らないと文句を言われそうだ。でも、貼らないつもりだった。それは本書を手に入れた自分の特権ではないか。しかし、貼らないなら貼らないで、本当に手元にあるのかと疑い、きっと嘘だとふれまわる不埒の輩が出現するかもしれぬ。いやそんな人間がでるほど読まれはしないが、しかし読んでくれる人にあまりにサービス精神が欠けるから、一枚ぐらいは貼っておこうと思う。

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 中身はまだ、小説を五編読んだだけ。全部読んだら感想とかをブログに書くかもしれない。書かないかもしれない。そういや火野葦平にも葦の字が入っているけど、葦原の葦とは特に関係ない。

 

 

河童之国探偵物語--クヮヌノットの醜聞--

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黄皿連盟 河童之国探偵物語

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