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人類は如何に神々として滅びるか

『自己が無視されることを無視するという彼等の英雄主義』

おすすめkindle無料本①伊東静雄「夏花」

 

詩集夏花

詩集夏花

 

 伊東静雄(1906-1953)は、詩人、しかも当節ほとんど見当たらないというか、絶滅してしまった(と断言してもいいと思うのですが)抒情詩人です。

 (彼に憧れて家に訪れた17歳の三島由紀夫について、日記に「俗人」と書いてけなしていたという逸話のある詩人です。)

 萩原朔太郎に激賞された処女作「わがひとに与ふる哀歌」もkindleで読めますが、つい先日twitterでおすすめしたので、今回は「夏花」をご紹介しようと思います。

 

 まずは、中から一作引用するのが一番かと思います。

  水中花


水中花すゐちゆうくわと言つて夏の夜店に子供達のために売る品がある。木のうすい/\削片を細く圧搾してつくつたものだ。そのまゝでは何の変哲もないのだが、一度水中に投ずればそれは赤青紫、色うつくしいさまざまの花の姿にひらいて、哀れに華やいでコツプの水のなかなどに凝としづまつてゐる。都会そだちの人のなかには瓦斯燈に照しだされたあの人工の花の印象をわすれずにゐるひともあるだらう。

今歳ことし水無月みなづきのなどかくは美しき。
軒端のきばを見れば息吹いぶきのごとく
萌えいでにけるつりしのぶ。
しのぶべき昔はなくて
なにをか吾の嘆きてあらむ。
六月ろくぐわつと昼のあはひに
万象のこれはみづから光る明るさの時刻とき
ひ逢はざりしひとの面影
一茎いつけいあふひの花の前に立て。
堪へがたければわれ空に投げうつ水中花すゐちゆうくわ
金魚きんぎよの影もそこにひらめきつ。
すべてのものは吾にむかひて
ねといふ、
わが水無月みなづきのなどかくはうつくしき。

 

 ここでいう六月、水無月、というのは旧暦であって、今の暦では夏(6月下旬から8月上旬ごろ)です。なので、詩の前の文章に「夜店の水中花」があり、軒先には「釣りしのぶ」が下がっていて、

f:id:Ashiharayoshi:20160428080211j:plain(こういうやつ)

「葵の花」が咲き、「金魚」が出てくるわけです。

 一行目で、詩人は「今年の夏はなんて美しいんだろう」と「感動」します。

 庭先か、近所の道端か、彼の目の前には夏の市井の景色があるのでしょう。

 詩人は、忍ぶような過去もないはずなのにどうして嘆くことなんてあるだろうか、と言いますが、一本の葵の花を前にして思い出すのは、叶わなかった恋のおもい人の姿なのです。彼は結局その面影と思い出にたえられません。彼にとっては、ここにあるすべてのものが自分を拒んでいるように思われます。

 そうして詩人が最後に思うのは、「わが水無月のなどかくはうつくしき。」という慨嘆なのです。

 

 伊東静雄の詩は狭い。少なくとも紹介した処女作と「夏花」には彼の詩独自の狭さがあります。狭いが深い……いやいや深いか深くないかということはどうでもよく、彼の詩の狭さの在り方こそが、魅力になっているのだと思います。

 伊東の詩の狭さ、厳しさ、に通じるであろう特徴に、命令(する、される)強制(する、される)という観念があって、それは例えば「わがひとに─」では、「命ぜられてある人」「私は強いられる」「真白い花を私の憩ひに咲かしめよ」「お前のその憂愁の深さのほどに明るくかし処を彩れ」などという印象的な詩句に、また、ここに引用した「水中花」にも「すべてのものは吾にむかひて/死ねといふ、」という詩句にあらわれています。

 伊東の狭さ、厳しさ、ある種の潔癖さ、純粋さは、抒情詩でありながら、読者がたやすく同情することを拒んでおり、またそれこそが伊東独自の私情をかたちづくっているように思われるのです。

 

 ここまで読んで頂いたからには、多少伊東静雄について興味をもたれたかたもいるでしょうから、そういう方は、ぜひ読んでみてください。記事では夏花の一編をとりあげてみましたが、読むなら処女作の「わがひとに与ふる哀歌」からのほうがいいかもしれませんね……。 

詩集夏花

詩集夏花

 

 

わがひとに与ふる哀歌

わがひとに与ふる哀歌

 

 

(これが、おすすめ無料本①ということで、①というからには、青空文庫のkindle化されたものを抜き出して、②③④と続けていきたいと思っています。一応コンセプトとしては、「kinndle無料本10選!」みたいなまとめ記事と差別化をはかるために、なるべくamazonのランキング上位にはないような、有名作家のそれほどは有名でない作品や、名前は知られていても、あまり読まれていないような作家の佳品を、一作品だけ、もしくは、一作品を中心にとりあげて、私のつたない感想など交えつつ、紹介できればと思っています。)

 

饒舌な件(クダン) 鳥獣戯文

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